「AI会社」の実態を分類した ── 投稿 2,716 件のうち、仕事が担当から担当へ流れる「会社の形」は 16.1% だった
上原正吉(EarthLink Network Co., Ltd.)。Claude Codeを開発の主体に据え、20を超えるプロダクトを1人で同時に開発・運用しています。これは、その現場の実測記です。
「AI会社」の実態を分類した ── 投稿 2,716 件のうち、仕事が担当から担当へ流れる「会社の形」は 16.1% だった

「AI社員 30 人で会社を回しています」。最近、note や Threads でこういう投稿をよく見かけます。
私は「AI会社」と聞いたとき、Paperclip のようなものを思い浮かべていました。Paperclip は、AI のエージェントに組織図・担当・予算・承認を持たせる、ソースコードが公開されているソフトです。inbox(受信箱)に仕事が落ちてきて、担当の AI が拾って処理し、次の作業を別の担当に渡し、自分は次の仕事に移る。システム開発の会社を経営している私の感覚では、AI でできた会社とはそういう形でした。
ところが投稿を読んでみると、多くは違うものでした。AI に読ませる指示書のファイルに名前を付けたものが「AI社員」と呼ばれ、その集まりが「AI会社」と呼ばれています。それを「AI社員」と呼ぶとは、私は思っていませんでした。
そこで、「AI社員」「AI会社」を扱った投稿を 2,716 件集め、中身で分けてみました。「AI社員」の語そのものは使わず、「AI秘書」「エージェントの組織」などと書いた投稿も含めています。私が思い浮かべていた、仕事が担当から担当へ流れる「会社の形」の投稿は、438 件(16.1%)でした。
残りの投稿が間違っている、という記事ではありません。AI を個人の用事に使っている人や、普段 IT をあまり使っていない人にとっては、役名を付けたチャット 1 つでも大きな変化です。伝えたいのは、今の使い方で満足している人にも、その先にもっと便利な段階がある、ということです。
結論
- 仕事が担当から担当へ流れていたのは 16.1%(2,716 件中 438 件)だけでした。 まとめ役の AI が仕事を振り、担当が人を通さずに次の担当へ仕事を渡す形です。私が思い浮かべていた「会社の形」はこれです。
- 同じ「AI社員」が、7 種類の別のものを指していました。 役名を付けたチャット、指示書のファイル、決まった時刻に動く自動化、常駐する 1 体、複数のエージェント(指示を受けて、自分でツールを使いながら作業を進める AI)が仕事を受け渡す仕組み、他社の製品の名前、そして「AI を社員だと思って使おう」という心構えの話です。
- 指示書のファイルか役割プロンプトだけのものが 19.9%(540 件)ありました。 5 件に 1 件は、人が毎回起動する指示書に名前を付けたものを「AI社員」と呼んでいました。
- 集めた投稿の過半数(56.4%)は、会社の話ではありませんでした。 会社の話をしている投稿でも、いちばん多いのは法人も顧客もない「見立ての会社」でした。
- 人が何をしているかを書いていない投稿が 35.6% ありました。 「人間ゼロ」をうたう投稿でも、公開や送信のボタンは人が押している、と本人が書いている例があります。
- それだけでも価値はあり、その先の段階もあります。 役割プロンプト → 指示書ファイル → 定期実行 → 常駐 1 体 → 担当から担当へ仕事が流れる形、と進むごとに、人のやることが「毎回頼む」から「承認だけ」へ変わります。
- 比べるときは、名前ではなく 3 つで見ます。 ①何が動いているか ②会社の実体はあるか ③人は何をしているか。
本文(読了 約14分)
なぜ整理が要るのか
「AI社員」という言葉は、使う人によって指している物が違います。AI への指示を書いたファイルを 30 枚用意した人もいれば、30 本のプログラムを 24 時間動かし続けている人もいます。同じ「30 人」でも、自分の仕事で再現できるかどうかは、名前からは判断できません。
そのため、投稿を読んで「自分の仕事にも使えるか」を判断しようとしても、まず中身を読み解くところから始めなければなりません。この記事では、「AI社員」と呼ばれている物の側を、何が動いているか・会社の実体はあるか・人は何をしているか、の 3 つで分けます。
どう調べたか
集めた投稿は 2,716 件です。媒体の内訳は次のとおりです。

- note: 検索 API で「AI社員」など 17 語と、Paperclip・OpenClaw などの製品名 20 語を検索し、関係のある 1,011 件を残しました。
- Threads と Facebook: 私のアカウントでログインしたブラウザをプログラムで操作し、それぞれ 55 語・38 語で検索し、関係のある 773 件・670 件を残しました。
- Zenn・Qiita・Dev.to・Hacker News・Medium: 各サービスの API で日本語 19 語・英語 15 語を検索し、関係のある 262 件を残しました。
それぞれの投稿の本文(note は 8,000 字まで、SNS は連投と返信まで)を LLM(ChatGPT や Claude の元になっている AI のモデル)に読ませ、3 つの軸で分類しました。本文に事例として出す投稿は、元の本文を開いて、分類と要約が合っているかを確かめています。
この数字には、次の限界があります。
- 割合は、世の中全体の割合ではありません。 製品名でも検索したので、常駐する 1 体(OpenClaw など)や、会社の形を作るソフト(Paperclip など)が多めに入っています。
- 「AI社員」という語そのものを使っていたのは 709 件(26.1%)だけです。 残りの多くは「秘書」「エージェント」「組織」など別の言葉で、同じ種類の仕組みを書いていました。語が違っても、中身が同じなら分類に入れています。
- 分類は LLM による机上の分類です。 SNS の投稿は短く、中身が少ないものも多くあります。有料記事は無料部分しか読んでいません。
「AI社員」の中身は 7 種類ある
1 つ目の軸は、「AI社員」と呼ばれているものの中身、つまり何が動いているかです。人の手が多い順に並べると、次の 7 種類と、中身が分からないものに分かれました。

- 心構えだけ(99 件・3.6%): 汎用の AI を「新入社員」「部下」と見なして、頼み方を変えよう、という話です。動いている物も、役名を書いたプロンプトもありません。たとえば AI を「超優秀だけど、きちんと指示しないと動かない部下」と見なし、使う側の段取りの力が要ると論じる記事です(note)。
- 役割プロンプト型(155 件・5.7%): ChatGPT や Claude のチャットに「社長」「編集者」などの役名を付け、人が会話を切り替えて呼びます。1 つのチャットの中で、役割を CMO(マーケティングの役員)→マーケティング部長→SNS 運用担当と 3 段に切り替え、戦略→計画→台本と落としていく方法がその例です(note)。
- 指示書ファイル型(385 件・14.2%): CLAUDE.md や SKILL.md など、AI に読ませる指示書のファイルに役割と手順を書きます。ファイル 1 枚を社員 1 人と数えることが多く、起動するのは毎回人です。Claude Code(Anthropic の、パソコンの中でファイルを読み書きしながら作業する AI ツール)の subagent(作業を分担させる補助の AI)で 16 部署を作った記録がこの型です(Zenn)。
- 定期実行型(245 件・9.0%): cron(決まった時刻にプログラムを起動する仕組み)などで決まった時刻に起き、決まった作業をして終わります。1 本を「社員」や「部署」と言い換えています。担当が何人いても、担当どうしで仕事を渡さず 1 本ずつ動くなら、この型です。
- 常駐 1 体型(781 件・28.8%): Mac mini や月額で借りる仮想サーバーで動き続け、Slack や LINE から話しかけると応える 1 体です。OpenClaw や Hermes Agent などのソフトで作ります。専用に買った Mac mini で OpenClaw を動かし、Slack から話しかける秘書にした初日の記録がその例です(note)。
- 複数エージェント型(438 件・16.1%): まとめ役の AI が担当に仕事を振り、担当から担当へ、人を通さずに仕事が流れます。Claude Code と、子のセッションを起動して cron も内蔵するゲートウェイ(セッションを管理するサーバー)で、8 部門・約 30 人の AI と cron 22 本の組織を一人で運営している記録がこの型です(Zenn)。
- 製品名型(130 件・4.8%): ベンダーが自社の製品やサービスに「AI社員」「AI employee」と名前を付けたものです。利用者は仕組みを組んでいません。問い合わせ管理のサービスが、要約・返信文の作成・タスクの起票をする新機能を「AI社員」と呼んでいる例があります(note)。
残りの 483 件(17.8%)は、社員の見立てを使っていないか、宣伝や有料部分のせいで中身が分からないものです。「AI社長」という言葉が、AI ではなく、AI に頼りきる人間の社長を指している記事もありました。
冒頭で書いた「会社の形」は、複数エージェント型の 438 件(16.1%)です。指示書に名前を付けて「社員」と呼んでいる指示書ファイル型と役割プロンプト型は、合わせて 540 件(19.9%)でした。
7 種類の違いを、1 つの表にまとめます。

境目で迷ったときは、次の問いで分けました。
- 役割プロンプト型と指示書ファイル型: 役割がチャットの中だけにあるか、ファイルに書いて残してあるか。
- 指示書ファイル型と定期実行型: 毎回、人が起動するか。それとも時刻で起動が決まっているか。
- 定期実行型と常駐 1 体型: 話しかければ応えるか。時刻が来て決まった作業をして終わるだけか。
- 定期実行型と複数エージェント型: 担当が別の担当に仕事を渡し、人を通さずに次が動くか。
「AI社員 N 人」の N は、何を数えているか
ここが一番、名前だけでは分からないところです。投稿に書かれていた人数と、その人数が実際に数えている物を並べます。

各行の出典は次のとおりです。
同じ「AI社員 N 人」でも、組織図に 63 名を並べた人と、1 人が 1 つの仕事を受け持つ AI社員を 32 人置き、持ち場ごとに 1 分おきに仕事を確かめさせている人がいます。どちらが正しいという話ではありません。数えている物が違うので、人数どうしは比べられない、ということです。
名乗った規模と、実際に動いていた量は違う
人数の数え方に加えて、「動いている」の意味もそろっていません。これは、書き手自身が振り返りとして書いています。
- 16 部署を作ったが、使われていたのは 2 部署: 数か月運用したあとでセッションのログを棚卸しすると、実際に呼ばれていたのは 2 部署だけで、残りの 14 部署をやめた記録です(Zenn)。
- 15 人のうち、動いていたのは 3 人: AI社員 15 人の最終稼働日と成果物の数を数えたら、今も動いているのは 3 人で、6 人は一度も呼ばれていなかったという記録です(note)。
- マシンは 38 日動いていたが、動画の生成は 37 日止まっていた: 決まった時刻に動くジョブ 27 個で広報を回していました。動画の生成は 37 日間止まっていたのに、どのジョブも正常終了の扱いだったため監視は気づかず、オーナーに指摘されて分かった記録です(Zenn)。
- 「前月比 23% 増」と報告したが、実データは 7% 増: 従業員 3 人の会社で作った CFO(財務の役員)役の AI の報告が実データと違ったので、数字を元データと突き合わせる仕組みを足した記録です(Qiita)。
どれも、書いた本人が自分の失敗として書いている記録です。「AI社員が何人いる」と「その AI社員が今日、仕事をした」は、別の数字です。
会社の実体は 5 種類ある
2 つ目の軸は、会社の実体です。集めた 2,716 件それぞれが、どんな「会社」の話をしているかを、法人があるか、人間の社員がいるか、お金を払う顧客がいるかで分けました。

- 会社の話ではない(1,533 件・56.4%): 半分以上は、「AI社員」の話をしていても、個人の生活の補助やツールの導入報告でした。
- 見立て・演出の会社(352 件・13.0%): 会社の話をしている投稿の中では、これがいちばん多くありました。フォルダや役名の集まりを「会社」と呼んでいるもの、売上 0 円の実験の舞台などです。ある人は「AI社員の会社といっても法人ではなく、パソコンの中の 1 つのフォルダ」と自分で書いています(Threads)。
- 一人の実業(309 件・11.4%): お金を払う顧客がいる個人の事業を、AI が手伝っています。中古 PC の事業者が AI社員 9 人を作り、記事の執筆から公開までの工程を週 1 回自動で回し、ログインが要る外部サービスへの貼り付けは本人がやっている例があります(Zenn)。
- 人間の社員がいる組織(264 件・9.7%): 自分以外の人間の社員がいる組織に、AI を入れたものです。NTT データの技術者が、大規模案件の Slack に PM・CTO・CSO という役名の AI 3 体を置き(元の記事では、PM は推進役、CTO は品質を見る役、CSO は議論の前提を疑う壁打ち役)、社員 5 人で 2 週間運用した記録がその例です(Zenn)。
- 会社の形を売るソフト(189 件・7.0%): 組織図・担当・予算・承認を持つ OSS(ソースコードが公開されているソフト)の Paperclip などの紹介です。このうち 171 件(90.5%)は、数字や期間などの具体が無い紹介・宣伝で、実際に回した記録はほとんどありませんでした。
- 無人を名乗る会社(69 件・2.5%): 「社員は全員 AI、人は承認だけ」と名乗るものです。ただし、名乗っていても、人に残っている仕事を本人が書いている例があります。次の章で書きます。
「AI会社」という語そのものを使っていた 129 件に絞ると、いちばん多いのは会社の形を売るソフトの紹介(53 件)で、次が見立て・演出の会社(45 件)でした。
「AI会社」という同じ言葉が、パソコンの中のフォルダ 1 つから、社員 3 人の実在の会社、OSS の名前までを指しています。
人は何をしているか ── 「人間ゼロ」でも、人はいる
3 つ目の軸は、何がきっかけで動き、人は何をしているかです。

いちばん多いのは「記述なし」の 967 件(35.6%)でした。「AI社員がいる」と書いても、何がきっかけで動き、人が何をしているかを書いていない投稿が、3 件に 1 件以上あります。しかも、この 967 件のうち 777 件(80.4%)は、数字や期間などの具体もありませんでした。
1 つ目の軸と組み合わせると、種類ごとに人の関わり方の傾向が見えます。

役割プロンプト型と定期実行型は、人の関わり方がほぼ決まっています(どちらも 8 割超)。一方、常駐 1 体型と複数エージェント型は 5〜6 割にとどまり、常駐 1 体型でも 205 件、複数エージェント型でも 126 件が、人が何をしているかを書いていませんでした。常駐する 1 体や、複数のエージェントが仕事を受け渡す仕組みのように、人が毎回手を出さない仕組みほど、人の役割の書き方がばらつきます。
そして、「人間ゼロ」「人は承認だけ」と書く人たちも、人に残っている仕事を自分で書いています。
- 人間 1 人が毎日約 60 分: 人間 1 人・まとめ役 2 体・専門の担当 17 体以上の組織を 8 か月運用し、創業者は毎日およそ 60 分を確認と承認に使っている、と書く記録です(Dev.to)。
- Claude が 1 時間止まると、会社も止まる: 社員ゼロで Claude に仕事を回している一人会社で、Claude が 1 時間止まったら、会社の作業もほぼ全部止まったという報告です(Threads)。
- 一晩で Claude の利用上限を使い切りかけてやめた: Paperclip で CEO(社長)・CMO・CTO(技術の責任者)などの 4 体を 24 時間動かしたら、一晩で、短い時間ごとの利用上限を 100%、週の利用上限を 93% 使い、何に使ったか分からずアンインストールした報告です(Facebook)。
- 公開と送信のボタンは人が押す: AI社員 17 人で社員ゼロの会社を回すと書く人も、送信のボタンは必ず自分が押すことをルールにしています(Threads)。AI社員 13 人の会社を作っている人も、公開のボタンだけは自分で押すと書いています(Threads)。AI のチームが 2 週間で「投稿待ち」まで仕上げた記事 8 本のうち、本人が公開したのは 0 本だった、という報告もあります(Threads)。
「人は承認だけ」と書いてあっても、その承認には 2 種類あります。
- プロンプトで頼むだけの承認: 指示書に「送信の前に確認して」と書いておくものです。守ったかどうかは、AI の自己申告になります。
- 仕組みで止める承認: hooks(操作の直前・直後に必ず動く小さなプログラム)で、外部への送信や大事な文書の書き換えを、人が許可するまで止めるものです。Claude Code の hooks を 5 つ入れて、外部への送信と大事な文書の書き換えを仕組みとして止めている人がいます。文章で頼むだけでは、守ったかどうかが AI の自己申告になるから、という理由です(Threads)。
同じ「人は承認だけ」でも、止まる強さがまったく違います。比べるときは、どちらの承認なのかまで見る必要があります。
では「AI社員」とは何と言えるか
ここまでの結果から言えるのは、「AI社員」という言葉は、仕組みの名前ではなく、扱い方の名前だということです。どんな仕組みにも「社員」という名前は付けられます。名前は扱い方を表しているだけで、中身は保証しません。
その裏付けになる観察が 2 つあります。
- 呼び名は、仕組みよりも言語や売り方によって変わるようです。 英語の投稿で「社員(employee)」の語を使っていたのは 8.0%(646 件中 52 件)で、日本語の投稿の 31.7% より大幅に少なくありました。英語で「社員」と呼ぶ 52 件のうち 13 件(25.0%)は、他社の製品の名前でした。日本語では、この割合は 6.2% で、英語はその約 4 倍です。社内では「AI社員」と呼びつつ、社外には「AI部下」と言い換えた会社もあります。「置き換えられる怖さ」がある響きでは広まらない、という理由です(Facebook)。
- 「社員」という言葉は、人の側の扱い方を変えるために使われています。 ドット絵のオフィス画面に出勤・退勤を足した人は、業務の効率には寄与しないと断ったうえで、チームを運用している実感と愛着が増すと書いています(Threads)。
一方で、「社員」の中身をはっきり条件で決めようとしている書き手もいます。固有の ID・最小限の権限・会社の記憶を持ち、重要な操作は人間が承認する、という条件で定義する人です。これは来年始める構想として書かれています(note)。
この「ID・権限・記憶・ツールの束が社員の正体だ」という見方は、失敗の報告とも合っています。OpenClaw で 2 体を運用したら会話の履歴が混ざり、1 体が自分をもう 1 体だと名乗った、という報告があります(Facebook)。報告した本人は、ID・環境・権限・制約をシステムの側で固定する必要があった、と振り返っています。名前を付けただけでは、その「社員」が誰なのかは決まりません。
なので、「AI社員」「AI会社」を比べるときは、名前ではなく次の 3 つを書くのがよいと考えます。
- 何が動いているか: 役割プロンプトか、指示書ファイルか、定期実行か、常駐する 1 体か、複数のエージェントが仕事を受け渡す仕組みか、他社の製品か。
- 会社の実体はあるか: 見立てか、一人の実業か、人間の社員がいる組織か。
- 人は何をしているか: 毎回頼むのか、結果を読むのか、承認だけか。承認なら、頼むだけか、仕組みで止めるか。
それだけでも価値はある
ここまで、「AI社員」の多くは、私が思い浮かべていた会社の形ではない、と書いてきました。だからといって、価値がないわけではありません。
集めた投稿の過半数(56.4%)は、会社の話ではなく、個人の生活の補助やツールの導入報告でした。チャットに役名を付けただけ、Mac mini で 1 体を動かし続けているだけでも、毎日の過ごし方が変わった、と書いている人がたくさんいます。
開発会社の感覚、社長の感覚からすると、名前を付けた指示書はツールであって、社員ではありません。でも、AI を個人の用事に使っている人や、普段 IT をあまり使っていない人にとっては違います。「編集者」として答えてくれるチャットや、Slack でメッセージを送ると返事をくれる Mac mini の秘書は、それだけで大きな変化です。そういう人にとっては、それだけでも脅威に感じられる、というのは理解できます。
その先の段階がある
では、今の使い方で満足していれば、そこで終わりかというと、そうではないと考えています。心構えだけと製品名型を除いた 5 種類は段階として並び、段階ごとに人のやることが変わります。種類ごとの、いちばん多い人の関わり方と合わせて並べます。
- 役割プロンプト型: 人が毎回頼みます(役割プロンプト型の 87.1%)。役割はチャットの中にしかありません。
- 指示書ファイル型: 役割と手順がファイルに書いて残ります。起動は毎回人で、中で分業します(68.8%)。
- 定期実行型: 決まった時刻に自分で起きます。人は結果を読みます(84.1%)。
- 常駐 1 体型: 動き続けていて、話しかけると動きます(61.6%)。定期実行と違って、決まった作業だけでなく、その場で頼んだことにも応えます。チャットを開いたり、起動したりしなくて済みます。
- 複数エージェント型(会社の形): inbox に仕事が落ちてきて、担当が処理し、次の作業を別の担当に渡します。人の関わり方でいちばん多いのは、決めた操作の承認だけです(54.3%)。
段階を上がるごとに、人の手から離れるものが 1 つずつ増えます。役割がファイルに残り、起動が時刻で決まり、チャットを開いて起動する手間がなくなり、最後は担当どうしで仕事を渡すようになります。その代わりに、周りに要る仕組みが増えます。上で紹介した記録のとおり、動いている数が多いことと、仕事をしたことは別です。16 部署を作って使われていたのは 2 部署だった、動画の生成が 37 日止まっていても誰も気づかなかった、Paperclip で 4 体を動かしたら一晩で利用上限を使い切りかけた、という記録がありました。会社の形の段階では、仕事を本当にしたかを数える仕組みと、プロンプトで頼むだけでなく仕組みで止める承認も要ります。
どの段階が合うかは、自分の手から何を離したいかで決まります。ただ、今どの段階にいても、次の段階はあります。
私の会社に当てはめると
最後に、この 3 つの軸を、自分の会社に当てはめてみます。EarthLink Network は 2003 年創業の法人で、人間の社員もいる組織です。この中で、種類の違う仕組みが層になって動いています。冒頭で書いた会社の形は、私たちが実際に動かしているものです。
- 会社全体の Paperclip: 会社の仕事を割り振る、いちばん大きな層です。ここで私の担当になった仕事は、下の私の秘書に渡り、そこで細かく分けて進めます。開発の部署に回った仕事は、Local Commander に渡ります。
- Local Commander(開発): EarthLink として主に動かしているのは、この仕組みです。システム開発の会社としての大きな取り組みで、開発の部署が、別の会社に開発を外注するような形で仕事を渡します。ローカルの LLM が開発の仕事を分類し、Claude Code や Codex に振り分け、プルリクエスト(変更の取り込み依頼)のレビューまで進めます。中身は複数エージェント型ですが、開発の仕事に限ります。
- AI Office(私の秘書): OSS の Paperclip を私の Mac で動かしている、私個人の秘書です。EarthLink の仕組みとして動かしているものではありません。2026年10月14日の時点で、Mail(メール)・Alerts(通知)・Blog(ブログ)・Skills(スキル)・Admin(事務)・PR Review(プルリクエストのレビュー)・SNS の 7 担当を置いています。担当ごとに指示書があり、報告は Slack に届き、承認と却下は Paperclip の画面で私がします。Mail の担当は Paperclip の定期実行で毎時起きて受信箱を整理し、見つけた仕事を別の担当に渡します。2026年10月11日に数えると(当時は 6 担当。SNS の担当は 10月13日に追加)、課題(Paperclip の中で 1 件ずつ管理する仕事の単位)420 件のうち 125 件は、担当が自分で見つけて別の担当に回した仕事でした。中身で分けると複数エージェント型で、人の関わり方は承認だけです。
- Claude Code の日々の利用: CLAUDE.md や、自作の skills(決まった作業の手順をまとめて AI に呼ばせる指示書)・hooks・subagent を使っています。中身は指示書ファイル型で、毎回私が起動します。hooks で外部への送信などを止めているので、承認は「仕組みで止める」ほうです。
- ChatGPT の dots: 1 体の常駐するエージェントで、実際の業務アカウントにつないで確かめました(前回の記事)。常駐 1 体型です。



では、私の会社の AI社員は何人か。私の秘書の担当なら 7 人ですが、これは会社の AI社員ではありません。会社の仕事は、全体の層から私の秘書や Local Commander へと、外注するように渡っていきます。どの層の、何を数えるかで答えが変わるので、1 つの数字では答えられません。だからこそ、「何人か」ではなく「何が動いていて、人は何をしているか」で書くようにしています。会社の全業務を AI で回す取り組みの全体像は、こちらの記事に書いています。
次回: どのアプリで何ができるか
次回は、ツールの側を分類します。Claude Code、ChatGPT(dots を含む)、そのほかの常駐させて使うエージェント、Paperclip などのソフト、OpenClaw、Mac mini で動かす場合について、できること・できないこと、どういう人に向くか・向かないかを書きます。
このシリーズでは、仕事を任せられる AI エージェントを実際の業務につないで動かし、何ができて何ができないかを順次確かめていきます。
興味のある方は、ぜひ「いいね」と記事の購読をお願いいたします。
自社プロダクトは https://www.eln.ne.jp/products にまとめています。
筆者について
上原正吉。EarthLink Network Co., Ltd. でAI開発をしています。2025年からClaude Codeを開発の主体に据え、今は20を超えるプロダクトを1人で同時に開発・運用しています。この連載では、その現場で実際に起きたこと(うまくいったことも、失敗も)を、数字と一緒に書いていきます。
また、AIで業務や開発を組み替えたい会社・チーム向けに、AI活用のコンサルティングも受け付けています。ご相談は www.eln.ne.jp からどうぞ。
EarthLink Network は、会社の全業務を AI で回すために、必要になったものを自社で作っています。いま作っているプロダクトの一覧と概要は、こちらにまとめています。
→ EarthLink Network が自社でつくっている18のプロダクト
会社と各プロダクトの詳細は、公式サイト www.eln.ne.jp をご覧ください。